バウスマガジン
2024.09.27
ファイナンス
住宅は生涯にわたって暮らしを支え続ける基盤、できるだけ理想に近い住まいを手に入れたいもの。しかし住宅は人生の中で最も大きな買い物でもあり、「いくらまでの住宅なら買えるのか」「将来も返済が続けられるのか」などと心配になる方もいるかもしれません。
理想の住まいを手に入れるために知っておきたい「家と資金の話」を、連載記事でご紹介する本シリーズ第3回のテーマは、ローン金利が上昇傾向にある時代の住宅購入です。
住宅ローンの金利は、「固定金利型」と、「変動金利型」に大きく分けられ、金利が決まる仕組みは両者で異なります。
固定金利は、長期金利(※1)を指標としています。2023年に日本銀行(日銀)が長期金利の上限を0.5%から1.0%に引き上げ、わずかではありますが上昇傾向にあります。
一方、変動金利はその時点の金融情勢に応じて半年ごとに見直され、主に短期プライムレート(※2)という金利を指標としています。実際には、借りる人の条件などによって銀行が優遇幅を設定しており、この優遇幅を差し引いた数字が実際に適用される金利になります。
変動金利の基準となる短期プライムレートは、日銀の政策金利(※3)に連動しています。2024年7月に日銀が政策金利を0.15%引き上げて年0.25%にすると決めたことで、金融機関では変動金利型の住宅ローン金利を引き上げる動きがみられています。
固定金利型は返済中に長期金利が上がっても支払額が変わらないというメリットはありますが、低金利下では変動金利型のほうが金利水準が低いので、住宅ローンを組む人の大半は変動金利を選択しています。24年に政策金利が上昇したことで、多くの人が利用する変動金利もいよいよ上昇局面に入ったと考えられます。
※1 資金の貸し借りの期間が1年超の金利。 代表的な指標として10年物の国債利回り(国債金利)がある。
※2 金融機関が信用力の高い企業に短期的な資金を融資する際に使う金利。
※3 景気や物価の安定などのために、中央銀行(日本では日本銀行)が誘導目標とする金利で、金融機関の預金金利や貸出金利などに影響する。景気が過熱しているときには金利を上げて鎮静化し、景気が後退しているときには金利を引き下げて経済活動を活発化させる。
変動金利型の住宅ローン金利が上がると、同じ借入額・返済期間でも毎月の返済額が増え、総返済額も増えることになります。
ただ、連動元である政策金利の引き上げ幅は0.15%とわずかで、住宅ローン金利の引き上げ幅も同程度になると考えられます。今後さらに政策金利が引き上げられることも考えられますが、急激な金利引き上げは景気へのマイナス影響が大きいため、利上げは少しずつ慎重に行われます。このため、住宅ローンの変動金利が急激に上がるような事態は考えづらいでしょう。
また、多くの金融機関では急に返済額が増えることのないよう、緩和措置が設けられています。返済額の見直しは5年ごととする「5年ルール」や、返済額が増える場合でもそれまでの返済額の25%増を上限とする「125%ルール」を設定しているケースが多くあります。
前述した通り、足元の住宅ローン金利の上昇幅はわずかであり、現在の住宅ローン金利は過去40年の推移をみても非常に低い水準にあります。住宅購入を考える人は、必ずしもローン金利が上昇しそうだということだけで予算を下げたり、住宅購入をあきらめなければいけないわけではありません。
日本の物価は2021年後半から上昇が続いており、インフレ状態に入ったと考えられます。足元では物価と金利上昇ばかりが目立ちがちですが、インフレ下では賃金も上がるものです。いずれは賃金上昇により、ローンを返済する力も追いついてくると考えるのが自然です。
実際、24年の春季労使交渉(春闘)の賃上げ率は、33年ぶりに5%を上回りました。今後は人口減少による労働力不足も追い風となり、中小企業を含めた賃上げの機運が加速していくことも考えられます。
デフレ経済下では、手元になるべく現金を持っておくのが合理的な行動でした。物価が下がって実質的な現金の価値は上昇するので、現金が最も有利な資産の置き場所だといえたのです。
しかし、金利や物価が上昇するインフレ下では、現金の価値は下がっていくので、消費か投資をするのが合理的な行動になります。もちろん、生活防衛資金として一定の現金を預貯金で確保しておく必要はありますが、一般的にはインフレに強いとされる不動産や株式などにも投資しておくことで、大切な資産が目減りしていくことを防げる可能性があります。資産価値の下がりにくいマンションを保有することは、有力なインフレ対策のひとつともいえるのではないでしょうか。
インフレ局面で住宅ローンを組む場合、金利変動リスクを抑えることを優先するなら返済期間を短くしたり、固定金利型の住宅ローンを選択したりするのが教科書的な正解ではあります。まずは変動金利でローンを組み、金利が上昇したら固定金利に借り換えるという手もありますが、その時点の固定金利の水準は今以上に上昇しており、それ以上の金利上昇を避ける効果にとどまります。
近年は、返済期間をできるだけ延ばして月々の返済額を抑えようと考える人も増えているようです。返済期間は後から伸ばすことができないため、無理に短くすると月々の返済額が大きな負担となる場合があるからです。無理に返済期間を短縮するよりも、ある程度余裕を持った返済額を設定し、少しずつでも貯蓄をして、金利が大きく上がるようであればそれで繰り上げ返済をするほうが安全です。
中には、返済期間を40年、50年に設定して月々の返済額を抑え、浮いたお金を新NISAなどの積み立て投資に回す人もいるようです。将来的にインフレが進めば金利が上がって返済額が増えるかもしれませんが、その場合は株式などの価格も上昇して積み立て投資が大きな利益を出している可能性も高いので、増えたお金で繰り上げ返済に充当する、という考え方もあります。
住宅購入は必ずしも、お金の損得だけで判断すべきではありません。そもそも、住まいを求める人が不確定な要素に振り回されてしまうとなかなか決断できず、買い時を逃してしまうことにもなりかねません。金利が変動することは仕方のないことなので、マイナス面だけに囚われず、プラス面も上手に取り入れていけるといいですね。
なにより、住宅は生活の基盤であり、住まいを手に入れることの満足感と幸せは、お金の損得だけで測れるものではありません。将来を正確に予測することは誰にもできない以上、欲しい時が買い時だとシンプルに考えるほうが、後悔のない選択につながるかもしれません。