バウスマガジン
2025.10.31
BAUSのある街
都営三田線・新板橋駅、板橋区役所前駅、JR埼京線・十条駅と、複数の路線が利用できる板橋区・加賀。「加賀」という地名は、江戸時代に加賀藩前田家の下屋敷があったことが由来とされています。
かつて大名による園遊会や鷹狩りが催されていた広大な敷地には、現在、大学や小中学校、図書館、公園、博物館、スポーツ施設などが集約しており、街全体が「人生の教養」を深めてくれるフィールドそのもの。石神井川沿いの緑道から眺める風景にも、穏やかな品格が漂っています。
板橋加賀エリアを東西に横断するように流れる石神井川は、桜並木の緑道が整備されており、春には息を呑むほど見事な桜のトンネルが川を彩ります。
この緑道には車が入ってこないため、小さなお子さんやベビーカーを押しながらでも、安心してゆっくり歩くことができるのも魅力です。
また、生活道路としての役割も果たしていて、買い物袋を持った年配のご夫婦や、おしゃべりしながら楽しそうに歩く小学生の姿なども見られます。
川沿いにはいくつもの公園が点在しており、ウォーキングの休憩ポイントにもなっています。なかでも、小高い丘のような形状の加賀公園は、下屋敷の庭園内に造られた築山(つきやま)の跡地。江戸時代から愛されてきた石神井川の風景は、現代でもしっかりと守り継がれています。
サラサラと流れる川面と木々のトンネル、足元を照らす木漏れ日は、毎日、違う表情を見せてくれて訪れる人を飽きさせません。
目的もゴールもあえて決めず、心おもむくままに歩いてみる――。そんな、気分をリフレッシュするための時間を過ごすにもピッタリの小道です。
区立金沢小学校の向かいにある東板橋公園は、板橋加賀エリアにあるさまざまな公園のなかでも、特に子どもたちからの人気が高い公園です。
小学校に隣接しているという立地の良さもありますが、いちばんの理由は、公園内にある「板橋こども動物園」の存在。
2020年にリニューアルした板橋こども動物園は、ミニチュアホースやヤギ、ウサギなどとふれあうことができる施設で、ポニーの乗馬をはじめ、モルモットの抱っこ、ヒツジのエサやり体験などが無料で楽しめます。
東板橋公園には、立派なケヤキの森とベンチもあり、大人たちが過ごす憩いの場にもなっています。ベンチに座って空を見上げれば、まるで森に抱かれているかのような感覚になり、都内にいることを忘れてしまいそう。
子どもから大人まで、幅広い世代の人たちが、思い思いの過ごし方を楽しんでおり、何気ない日々の幸せを描いた「一枚の絵」のような風景が印象的でした。
そんな東板橋公園を望む住宅地の一角にあるのが、赤い屋根が目印のリストランテ「arte(アルテ)」です。
オーナーシェフの中山さんは、イタリアで15年にわたり星付きリストランテをはじめとする名店で研鑽を積み、うち9年はトップシェフを務めています。
その後、日本に帰国し2022年に「arte」をオープンしました。目の前が公園で自然に恵まれ、店内に明るい光が差し込む様子がイタリアのリストランテと重なり、ここでの出店を決めたのだそう。
「arte」は、ランチ・ディナーともにコースで楽しむスタイルです。この日は、ディナーコース「アルテの真髄」から、中山シェフのこだわりが詰まったスペチャリタ3皿を用意していただきました。
ピエモンテ州の郷土料理「タヤリン アル ポモドーロ」は、中山シェフが手打ちしたロングパスタに野菜たっぷりのトマトソースを絡めた逸品で、「arte」の看板メニューです。
赤海老とリコッタチーズを詰めたトルテッリには、甲殻類のうま味が凝縮したソースがかかっていて、口に入れた瞬間、感嘆するほどの香りが広がります。
メインの鴨むね肉のローストは、皮目にアカシアの蜂蜜とスパイス、パウダー状にしたオレンジの皮がまぶされていました。
「イタリアのリストランテでは、多くのお客様がその店のスペチャリタをコースで楽しまれています。本場の味や、ひと皿ごとに異なる盛りつけの美しさ、コースならではの醍醐味を体験していただきたくて、日本でもこうしたスタイルを大切にしています」(中山シェフ)
最高の状態で料理を提供するため、「arte」は予約制となっています。中山シェフがひと皿ごとにそそぐ情熱と繊細な技術を、落ち着いた空間でゆったりと堪能できます。
そんな、本場仕込みのスペチャリタをサーブしてくれるのは、マダムの理香子さんです。
テーブルのコーディネートや店内装飾も理香子さんが担当しており、「僕にとってお皿はキャンバス」というメッセージが書かれたメニューカードは、中山シェフの思いを誰よりも理解している理香子さんが作成したもの。
中山シェフも「妻には本当に助けられています。私だけでは、この店は成り立ちません」と、絶大な信頼を寄せています。
「イタリアンでの本格コースは初めてという方から、“未知の世界を体験できて、おいしいだけでなくワクワクした!”と言っていただけたときは、うれしかったですね。常連のお客様が、プロポーズの場としてご利用くださったこともあります」(理香子さん)
料理のすばらしさはもちろんですが、互いに尊敬し合えるお二人の笑顔も、多くの人を魅了している理由なのかもしれません。
【お店情報】
arte(アルテ)
東京都板橋区板橋3-59-9 1階
電話番号:03-6766-6416
営業時間:ランチ11:00~14:00、ディナー17:00~21:00(※ともに予約制)/定休日:月、年末年始、不定休
公式サイト:https://www7b.biglobe.ne.jp/~arte/
大学などの教育機関が多く集まる板橋加賀は、産官学連携による取り組みが積極的に行われている街でもあります。
そのひとつが、東京家政大学のキャンパス内にある「森のサロン」。板橋区地域子育て支援拠点事業として常設された子育てひろばで、0~3歳のお子さんを持つ家庭を対象に、無料で利用することができます。
室内には、おむつ替え・授乳スペースも用意されていて、入退場は自由、予約も必要ありません。「であい/ふれあい/学びあい/育てあい/わかちあい」をテーマに、親子・学生・教職員が自由に集える場となっています。
この日も、大学の学生が手作りした遊具に夢中になっている子や、お昼寝中の子の横で談笑している保護者のグループなど、その光景はまさに「ほっこり」という言葉がピッタリ。
「森のサロン」の施設長を務める清水さんによると、月に1回、土曜日には「森のアトリエ」というイベントを開催しているとのこと。
「こちらのイベントは、季節に合わせて草花遊びや絵の具遊びなどを企画しています。毎回、大変人気で抽選となっています。造形表現学科の教員と学生が作った石窯で、ピザを焼くこともあるんですよ」(清水さん)
東京家政大学は、児童学や教育福祉、栄養学など、さまざまな専門分野を学べる学科があります。「森のサロン」では、どの学科の学生もボランティアとして参加することができます。
これは学生の貴重な経験になるだけでなく、保護者にとっても、新鮮な機会になっているのだそう。
「学生と話している保護者の様子を見ていると、保護者同士やスタッフとの交流とはまた違い、“お母さん・お父さん”ではなく“ひとりの大人”として、学生と接してくださっているように感じます。ご自身の学生時代の話をされる保護者もいて、私たちも知らなかった、その方の意外な一面に出逢える楽しみがあります」(清水さん)
保護者や職員、学生といった多様な視点から、子どもたちを見守っている「森のサロン」。そこでは、訪れた人たちが無理なく自然につながっていくという、地域コミュニティの在り方が育まれていました。
【施設情報】
森のサロン
東京都板橋区加賀1-18-1 1号館2階
電話番号:03-3961-6354
利用時間:月~金10:00~12:00、13:00~16:00/定休日:土日・祝日
公式サイト: https://www.tokyo-kasei.ac.jp/society/hulip/salon/index.html
板橋区役所前駅から徒歩で約7分、「&」マークがついたのれんが目印の「&(あんぱさんど)」は、衣・食・住に関わるアイテムを取り扱うセレクトショップです。
店内には、天然酵母のパンや焼き菓子、減農薬野菜といった食品から、生活雑貨、衣服までそろっていて、オーナーの木村さんいわく「数はそれほど多くはありませんが、そのぶん“ちょっといいもの”をご提案できるよう、こだわっています」とのこと。
特に減農薬の野菜は人気で、全て農家から直接仕入れています。なかにはメディアで紹介されたことのある有名な農家さんもいて、これを目的に通われるお客様もいるほど。
また、コーヒーは提携している自家焙煎の豆をお店で挽き、ハンドドリップで淹れてくれます。
コーヒーの香りが立ち上るまでの数分間は、店内で商品を眺めるのにもちょうどいい時間。アパレルメーカーとしての顔も持つ木村さんは、洋服についての商品知識も豊富で、いろいろと相談にものってもらえます。
さらにユニークなのが、そろばん教室「みやそろ」も開催していること。こちらは共同運営者の「みや先生」が担当されていて、そろばん8段・暗算10段の資格を持ち、なんと暗算においては、検定試験を満点の最高位で突破した、若き実力者なのです。
そろばん教室は、火・木・金の週3回。小学生の生徒さんが多く、みや先生は、近所のお姉さん的存在として愛されています。実は近年、習い事としてそろばんの人気がとても高まっているのだそう。
「意外かもしれませんが、そろばんって指を動かす、暗算でイメージするなど、右脳をとてもよく使うんです。直感や感受性も必要で、そういう点も保護者の皆さんから評価されているのかもしれませんね」(みや先生)
ジャンルを限定するのではなく、衣食住を「&」でつなぐ。そんな暮らしのなかの「お気に入り」を見つけに、訪れたくなるお店です。
【お店情報】
&(あんぱさんど)
東京都板橋区板橋3-53-4
営業時間:火木金12:00~、水13:00~(※時間変更の可能性あり)/定休日:月、土日祝日
公式インスタグラム:https://www.instagram.com/treeexfoods/
再開発によってロータリーやパーキングが整備された十条駅・北口エリアには、食べ歩きしたくなる個性的な飲食店が数多く並んでいます。
「頑張った大人たちへのご褒美」を叶えてくれるのは、北口から歩いて3分ほどの距離にある、「Beer++(ビアプラスプラス)」。オーナーの山腰さんが手掛けるクラフトビールが楽しめるお店です。
「Beer++」で提供しているクラフトビールは、常時7~8種類。その殆どが店内併設のブルワリーで醸造されたもので、IPAをはじめチーズ作りの際に出るホエイを使ったビールや、レッドルバーブを使用したシャンパンのようなビールなど、独創的でワクワクするビールが揃っています。
ラインアップは随時入れ替わっていくので、出逢える味はまさに一期一会。100種類以上あるといわれているビアスタイルを、心ゆくまで楽しめます。
「ビールにピッタリのおつまみもいろいろとご用意していますので、ぜひご近所の皆さまも、ふらっと気軽に遊びに来てくださいね。おひとりでも、お仲間とでも大歓迎です!」(山腰さん)
また、テイクアウト用として缶ビールを購入することも可能。こちらはラベルのイラストも素敵で、ちょっとしたギフトにもおすすめです。
【お店情報】
Beer++(ビアプラスプラス)
東京都北区上十条2-7-13
営業時間:火~金17:00~23:00、土日祝日14:00~22:00/定休日:月
公式インスタグラム:https://www.instagram.com/beerplusplus_brewing/
十条駅の周辺は、再開発によって整備された快適性と「古き良きカルチャー」がミックスされ、新たな魅力を生み出しています。
北口を出てすぐ右手に見えるのは、北区最大の規模を誇る、十条銀座商店街。加盟しているお店の数だけでも170店舗以上あり、昭和から営業を続けているお店も少なくありません。
アーケードには和洋中それぞれに特化した惣菜店をはじめ、100円ショップ、花屋、スイーツ店、ドラッグストアなどが並び建ち、暮らしに必要なジャンルが幅広く網羅されています。
赤と黄色のストライプの外観が老舗の風格漂う、鶏肉専門店「鳥大」は、長きにわたり地元の人たちに愛される有名店です。
名物の「チキンボール」は、なんと1個10円! 次々とお客様が来ては買っていくほどの人気商品で、「小さい頃からこれを食べて育った」というファンもいるほどです。
お店の人たちも皆さん元気で、歩いているだけでパワーをもらえてしまう十条銀座商店街。いつまでも守っていきたい、街の温かな風景です。