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バウスマガジン

2026.03.27

自分らしく

「接し方次第で犬は変わる。その喜びを伝えるのが僕の役割です」
ヒューマン・ドッグ トレーナー 須﨑大さん【前編】

 東京都港区にあるドッグスクール「DOGSHIP Harbor(ドッグシップ ハーバー)」の代表を務め、自身もトレーナーとして活動している須﨑大さん。「しつけは犬のため」という概念から抜け出し、犬との共生とそのあり方、さらには犬との関わりから学ぶ、人間同士のコミュニケーションの可能性を追求しています。
 どのような犬の個性も否定することなく、本質的な部分に目を向ける須﨑さんの言葉には、「自分らしさ」のヒントが隠されているかもしれません。

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  • 犬のしつけも問題行動も、
    人間の視点から生まれた言葉

    ——須﨑さんは、ご自身のことを「ヒューマン・ドッグ トレーナー」と表現されていますが、この言葉にはどのような思いが込められているのでしょうか。
     一般的には「ドッグトレーナー」のほうが認知されていると思いますが、僕は「動物のなかでも特に犬の行動は、人の関わり方や接し方によって変わるもの」だと考えています。犬との共生においては、飼い主さんをはじめとする僕ら人側が、まずそれを理解することが不可欠です。一方的に犬をしつけるのではなく、人も犬について学び、成長していくという姿勢を伝えたくて、「ヒューマン・ドッグ トレーナー」として活動しています。

  •  例えば、よく「犬の問題行動」という言い方をしますが、犬自身は「問題」だと思ってやっているわけではないですよね。楽しかったり、何か理由があったりしてやっているだけ。まさか自分が「問題犬」だなんて、微塵も思っていません。それを「問題」だと定義しているのは、人のほうなんです。
     しつけは漢字だと「躾」で、「身を美しく」と書きます。でも犬って、そもそもすでに美しいと思いません? 寝ていてもご飯を食べていても、なんなら排泄しているときだって美しい(笑)。
     「すでに美しい犬のしつけってなんだろう?」と考えたときに、僕は「おすわり」や「まて」といったコマンドを形式的に覚えさせることではなく、人生を共に歩むうえで大事なことや約束を犬に教え、伝えていくことではないかなと思うんです。

  • カナダで出逢ったのは、
    正反対ともいえる2つのメソッド

    ――その視点を持つと、「なぜ今、おすわりが必要なのか」という部分に意識が向くようになりますね。
     おすわりは手段であって目的ではないですから。落ち着いてほしいのか、何かに集中させたいのか。逆に、犬からの意思表示やサインとして、おすわりを使うトレーニングだってあります。
     飼い主さんの考え方や知識、経験などの違いから生まれる、犬に対する認識のギャップをできる限りなくし、「自分の接し方次第で、犬はこんなにも変わるんだ!」という気づきや喜びを感じてもらうのが、僕の役割です。

  • ――須﨑さんは大学卒業後、ドッグトレーナーになるためにカナダのバンクーバーへ留学したそうですが、なぜカナダを選んだのですか?
     当時はまだインターネットでの情報は少なく、カナダがどんなところか、ざっくりと本で調べた程度の知識でした。オオカミが生息しているというイメージがありましたので、動物の本質が学べるのではないかと思ったんです。
     ですが、留学したスクールでは「陰性強化」と呼ばれる体罰式のトレーニングが主流で……。僕はどうしてもそれに馴染めず、かなりのストレスを感じていましたね。
     そんなとき、犬が生まれつき持っている優れた嗅覚を活かして本能を刺激する「セント・トレーニング」というメソッドに出逢いました。力関係で抑え込むのではなく、犬の能力を活かす。全てが真逆の考え方で、「これだ!」と。
     本当はすぐにでもセント・トレーニングを学びたかったのですが、それってよくないなと感じて。真逆のスタイルを目指すからこそ、現在の学校でしっかり学んでおくことで、より気づきが増えるかなと思ったんです。なので、最初の学校も辞めずに一生懸命に勉強して、満点で卒業しましたよ。

  • 犬とのコミュニケーションが
    やがて、人間関係も変えていく

    ——帰国後は日本で活動を開始し、2003年に「DOGSHIP」を創立されましたね。
     嗅覚に特化したセント・トレーニングに出逢えたことで、犬がどんなことを考えているか/どんな特性を持っているかといった、「犬を内側から見る」というアプローチ方法を学ぶことができました。これは「DOGSHIP」でも重視している部分です。
     僕自身にも大きな影響を与えてくれていますね。犬に対してだけでなく、人間関係の構築にも活かされていると感じます。

  • ――「DOGSHIP」では、犬との非言語コミュニケーションによって得られる学びとして、チームビルディングやマネジメントに応用した企業研修を実施されていますね。
     先日もある企業からお声がけいただき、「動物から学ぶコミュニケーションの本質」というテーマで研修をやらせていただきました。
     課題は「RECALL(呼び戻し)」です。3チームにわかれて、それぞれが選んだ介在犬を声掛けのみで呼び戻し、足元で待てるようにするというものです。
     チーム内でトレーニングのプランを考えて実践してもらうのですが、最初は多くのメンバーが受動的ですし、上司や主張の強い人の意見が採用されがちで、その介在犬が「どのような子か」という視点や議論は生まれません。
     人側の都合だけで一方的にトレーニングしようとしても、犬は思うように動いてくれず、大抵うまくいかないんです。まあ、あえて手ごわい犬たちを連れていっているんですが(笑)。
     でも犬が相手だと、うまくいかなくても場の空気が重くならないんです。「(できないのは)この子のせいじゃない」という思いから、やがてチーム内に「この子が自分から動きたくなるには?」という視点が生まれ、上司・部下関係なくアイデアが交わされるようになり、意見を合体させたり調整したりするようになります。そうやってうまくいき始めたら、少しずつタスクのレベルを上げていきます。

  • 企業研修の様子。課題がうまくいかなくても笑顔になるのは、犬の存在が大きいのだそう。

  • 最初は戸惑っていた参加者も、気づけば犬の目線に合わせようと、床に寝そべるように。

  • 一方的なアプローチは通用しない!?
    個性豊かな介在犬たち

    ――仕事での失敗だと、つい「自分のせい?/誰のせい?」という意識から入ってしまいがちですが、犬がいるだけで「この子のせいじゃない。じゃあ、どうする?」からスタートできるのはいいですね!
     そうなんです。マイナスどころか、プラスに作用してくれる。そこから「相手を知る」「自分を変容・順応させる」「行動を引き出す」という一連のプロセスを通して、相手が主体的に動きたくなるコミュニケーションを実体験してもらいます。
     皆さん、普段からいろいろと勉強されていますし、こうした原理を頭では理解されているんですよ。でも自分事としての成功体験というか、経験値として取り込む機会って、忙しい日々の業務なかで意図的に作り出すのはなかなか難しいですから。

  • ――ちなみに、このときはどんな子が介在犬として参加したんですか?
     1頭目は、サモエドの女の子。洞察力が高いので、口先だけで「おすわり」と言われてもしません。「やっても、どうせ褒めてもらえるだけでしょ?」と、先の展開まで読まれてしまいます(笑)。
     2頭目は、好奇心と怖がりが混在している生後9カ月のチワワの男の子。まだ落ち着きがなく、触ろうとすると逃げてしまうことがあるので、いかに好奇心を高められるかがポイントです。
     3頭目は、プライドが高いツンデレなトイプードルの女の子。触ってほしいときは自分から寄っていくけれど、相手から来られると「興味ないから~」とそっけなくなります。
     そんな忖度なしの犬たちを相手に、どうすればコミュニケーションをとれるのかとチームで試行錯誤しているうちに、いつの間にか人間同士の理解が深まっていくんです。
    ******
     癒しだけでなく、さまざまな気づきを与えてくれる犬との関係。後編では、須﨑さんと愛犬との思い出や、コミュニケーションの本質について伺います。

    【後編を読む】

  • 犬の反応が想像や期待と異なり、トレーニングメニューについての意見交換がチーム内で行われます。このプロセスで何を感じるか、気づけるかがポイント。

  • 研修に参加した方からは、「中身のない指示は聞く耳を持たれない」「犬(人)ってこうだろうという想像だけでは通用しない」など、多様な学びの声が。