バウスマガジン
2024.10.28
自分らしく
マンションへの入居は、ゴールではなくスタートです。新しい場所でどのような暮らしをしていくか、近隣の方々とどのように関わっていくかは、物件選びと同じくらい重要なテーマだと思います
今回は、「ネイバーフッドデザイン」(同じまちに暮らす人々が、いざというときに助け合えるような関係性と仕組みを作ること)を手掛ける、HITOTOWA INC. シニアプランナー・浅野北斗さんに、これからの時代の住民コミュニティについてお話を伺いました。
かつて、人々の生活と住民コミュニティは強く結びついていました。冠婚葬祭や子育て、地域の清掃、防災などで、近隣の人々は結びついており、大小問わず相談し合い、助け合える、良好な関係が築かれていました。しかし、高度成長期以降、転居や遠方への移住が活発になり、住民の入れ替わりの増加*と世帯構成の変化などによって、地域における住民同士の結びつきは次第に薄れていきました。さまざまな生活サービスの充実によりお互いに助け合わなくても差しさわりなく暮らしていけるようになったことや、プライバシーを重視する風潮なども影響したと考えられています。**
これに伴い、「住民同士のコミュニティに求められる役割も変化してきたのでしょう」と、浅野さんは指摘します。
「災害時の助け合い、子育ての負担の緩和、高齢者世帯のケアなどで『共助』の関係を築いていくことは大事ですが、それが義務や押しつけになると、距離を置きたくなる人もいるのでは?と考えています。コミュニケーションの機会やイベントなど、日常にある『楽しい』場としてのコミュニティも重要です」(浅野さん)
確かに、近隣の人々と「共助」だけで結びつこうとするのは難しいように感じます。普段からの何気ないコミュニケーションの継続があってこそ、いざというときに助け合うことができるはず。また、そういったコミュニケーションに対する考え方は、人によりさまざまです。浅野さんは「住む人の選択肢を増やす」ためのコミュニティ支援活動を心がけているそうです。
新築マンションなどの場合、住民同士のコミュニティはどのように形成されていくのでしょうか。浅野さんの所属するHITOTOWA INC. では、「ネイバーフッドデザインメソッド」という独自の手法を活用しています。まずは住民の方々、売主、管理会社、ときには行政を交えて、「どのようなマンション・地域・まちを目指していきたいのか」「どのようなコミュニティにしていきたいのか」を一緒に想像することから始めるそうです。そこから仕組みや機会を細かく考えていきます。
コミュニティを作るといっても、そこに参加しない人もいると思います。そのような場合はどうしているのでしょうか。
「参加しないことも1つの選択肢だと考えています。大事なのは、コミュニティを作ること、運営することが目的化しないこと。コミュニティへの参加は自由であることと、特に参加しない人にも、コミュニティの意義や活動についてご理解いただくことを心がけています」(浅野さん)
コミュニティとの距離感は各々に決めてもらいながら、一方で参加・不参加にかかわらず、住民同士が「緩やかなつながり」を築き保っていくことが大切なようです。
「コミュニティについて、売主の方々の意識が高まっていると感じます。マンションを建てるだけでなく、その先の入居者の方々の暮らしを、本当に細やかなところまで考えていらっしゃいますね」(浅野さん)
入居後の暮らしを考えるうえで、コミュニティには参加してもらいたい。ただ、そのためにはそれが「楽しい」ことが必須です。旧来型の自治会・町内会だと参加しづらさを感じる人も、「楽しい」を皆で共有するアイデアを提案することで、興味を持ってもらえるそうです。その結果、前向きに参加していただける方が年々増えているとのこと。このようなアプローチを、防災のような重要なテーマに活用した事例もあります。
「バウス川口新井宿」では、マンション敷地内に BBQ スペースがあり、またマンション共用部の倉庫に BBQ グッズやテントなどアウトドア用品を備え、入居者様に貸し出しを行っています。そのアウトドア用品を実際に使用し、HITOTOWA INC. の協力で、楽しみながら有事の際の入居者同士の共助の契機を育んでいただく「防災備品BBQ」イベントを、近隣の河川敷で実施しました。 アウトドア備蓄品の使用や、BBQ 炊出しなどの企画をHITOTOWA INC. が担当し、多くの住⺠の皆様にご参加いただきました。
さらに、同マンションでは有事の際に住民同士の共助指針を示した防災マニュアルを、入居者の方々主導で作成しました(協力:いのちとぶんか社)。マンションごとに異なる立地条件や行政対応などを、入居後に皆様が実際に調査し、入居者有志メンバーおよび管理組合理事の意見を防災マニュアルに反映しました。
「防災備蓄品BBQ」以外にも、HITOTOWA INC. では、さまざまなイベントの実施を支援しています。
その1つが、入居時の交流パーティ。入居者の方々の顔合わせと、マンション管理スタッフからのご挨拶が目的です。
続く2回目、3回目のイベントからは入居者の方々にご要望を伺い、企画や開催のお手伝いをします。反響が大きいのは、クリスマス会、フリーマーケット、子ども商店街など。まさに「楽しい」を共有できそうなイベントですね。これから入居が始まる「バウス府中」では、入居者の方々が一緒に木や花を育てるガーデンデザインワークショップと、そのガーデンで生育したハーブを活用したティーパーティを計画しています。
「目的があるイベントは参加者が集まりやすい一方で、ざっくばらんに『雑談しませんか』というイベントは、参加のハードルが高いんです」(浅野さん)
前述の「防災」のように、入居者の方々共通の目的意識がある方が集まりやすいそう。
「『やらなきゃ』と『やりたい』をどうミックスさせるかが悩みどころですね。消防計画で定められている訓練などの機会は、義務感だけで参加していただいてももったいないですし、かといって『楽しくやりましょう』だけというのも違う」(浅野さん)
「楽しい」を交えながら「共助」を育んでいくことが、現代のコミュニティづくりのポイントのようです。
浅野さんが実際に手掛けられた住民コミュニティには、老若男女さまざまな方が参加しています。その中でも特に組織運営の役割も担うことになった方は、不安を抱かれることもありますよね。そういったことにはどう対処しているのでしょうか。
「コミュニティへの思いを持った方々に参加していただくことが理想ですが、運営の役割をしてくださる方が集まらない場合、輪番制のようになることもあります。その場合は、ネガティブな意見も含めて発言しやすくすることが大事だと思っています。誰かの負担が大きかったり、活動の意義が見えにくかったりした場合、組織設計から見直すことで、1つずつ解決していきます」(浅野さん)
住民の皆様には、それぞれに得意なこと、苦手なことがあるはずです。時間の制約など、さまざまな事情がある方もいらっしゃいます。それらを皆で補い合っていくことが、コミュニティ運営のポイントです。浅野さんによれば、活動に積極的な特定の方が中心の運営だけでなく、住民の方々が皆で協力しながら運営していくスタイルを支援することも多いそうです。
今回インタビューにお答えいただいた浅野さんは、以前はマンションリフォームの会社に勤務されていたそうです。そこで、建物や内装といったハードを作るだけでなく、コミュニティ運営などソフト面にも関わることで、入居する方々の幸せに貢献したいとの思いから、HITOTOWA INC.に入社されたとのこと。
現在は新しい取り組みとして、もともとその地域に住まれていた方々と新築マンションの入居者様との間をつなぐ取り組みや、自治体単位でのコミュニティづくりを支援されています。「会いたい人がいて、寄りたい場所があるまち」という未来像を描くHITOTOWA INC. の活動には非常に興味深いものがあります。
最後に、BAUSのブランドスローガンである「感動が育つ住まい」と、住民コミュニティの関係性についても聞いてみました。
「繰り返しになりますが、コミュニティは1つの手段にすぎません。入居者の方々の『こういう暮らしがしたい』という思いを実現することが第一。ただ、どういう暮らしをしたいかは人によって異なるため、一人一人の思いを大事にしていくこと、また、入居者の方々だけでなく、売主さんや管理会社さんのお話もていねいに聞き、共通の目標を作っていくことが大切。それぞれの思いをつないでいく『共感のリレー』が、コミュニティに『感動』をもたらすと思っています」(浅野さん)
*攝津斉彦(2013).「高度成長期の労働移動─移動インフラとしての職業安定所・学校」『日本労働研究雑誌 2013年5月号(No.634)』
**厚生労働省(2003)『平成19年版国民生活白書』