BAUS MAGAZINE

バウスマガジン

2025.06.06

BAUSのある街

街を愛する想いが育んだ、
唯一無二の風情を味わう「日暮里」

 浮世絵に描かれるほど、江戸時代から景勝地として愛されてきた日暮里。
 四季折々に美しいその風景は、ずっと見ていても飽きることなく、日が暮れるのも忘れてしまうため、「ひぐらし(日暮)の里」と称されたことが地名の由来ともいわれています。

 風情や情緒を楽しむという粋な下町文化は、都市化によって魅力的な発展を遂げた今もなお、しっかりと受け継がれ、息づいています。

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  • 暮らしと文化、異なる魅力を発揮する
    日暮里駅の東西エリア

     JR山手線をはじめ、6つの路線が乗り入れている日暮里駅は、都心の主要駅のほとんどに、30分以内でアクセスできるほどの利便性です。
     さらに、成田国際空港へはスカイライナーで最短36分。海外出張の方や旅行客の姿も多く見られ、いつも活気にあふれています。

     駅構内の商業施設「エキュート日暮里」には、おいしそうなスイーツやお弁当、総菜がずらりと並び、日常づかいはもちろん、期間限定ショップで話題のスイーツや東京土産をチェックするのも、ちょっとした楽しみになりそうです。

     特に注目したいのが、日暮里駅の東側と西側で、異なる街の魅力を持っているということ。
     東口エリアにはマンションなどの住居が多く、駅前には広いロータリーと、さまざまなジャンルの飲食店、スーパー、クリニックといった、生活に欠かせない施設が充実しています。

     一方、西口エリアは谷中銀座商店街や古民家カフェ、雑貨店、ギャラリーなど個性的なお店が数多く集まっており、谷中霊園から上野公園へと続く並木道は、下町情緒を感じられる観光スポットとしても人気のルート。

     東口エリアでゆったり暮らし、休日には西口エリアでパワーチャージと、多面的な魅力を持つ街ならではの、贅沢なライフスタイルがかないます。

  • 焼きたてパンの甘い香りが、
    朝からみんなを元気にしてくれる

     日暮里駅・東口から歩くこと約6分。静かな住宅地に現れたのは、焼きたてのパンが味わえる「ひぐらしベーカリー」と、書店「パン屋の本屋」を併設した「ひぐらしガーデン」です。

     朝8時、中庭テラスに遊びに来た小鳥のさえずりとともに「ひぐらしベーカリー」がオープン。それと同時に、常連のお客さんたちが次々と入店していきます。

     皆さんのお目当てはもちろん、店内で焼き上がったばかりのホカホカなパン! すでにお気に入りがあるのか、サッと購入していかれるので、入れ替わりもスムーズです。

     棚に並ぶのは、食パンやバゲットといった定番商品から、キッシュ、具材たっぷりのピザトーストなど30種類以上。特にスイーツ系のパンは見た目もかわいらしく、母親と一緒に来店した小さな女の子が、目を輝かせて選んでいました。

     お店の中央にはテラスがあり、カフェスペースでは、購入したパンと一緒にコーヒーなどのドリンクをいただけます。
     テラスから店内を吹き抜ける風はさわやかで、まるでこの一画だけが別世界のような、不思議なほどに心地よい時間が流れていました。

  •  2016年12月にオープンした「ひぐらしガーデン」は、現在9年目。実は、ここにはかつて、大正6年(1917年)創業のフェルト生地の工場があったのだそう。

     「ひぐらしガーデン」運営会社の社長は、工場の創業者から4代目にあたる方で、代々、この地を愛してこられました。

     同社の副社長・新井さんに経緯を聞くと、4代目社長が「100年以上この地を愛してきた自分たちだからこそ、できることは何か」を考え、日暮里の価値を高める事業として「ひぐらしガーデン」をスタートしたのだと教えてくれました。

     「僕らが考えるその価値とは、“安心して子育てできる街”です。中庭を作ったのも、親御さんがお子さんを見ながらお茶できる場所にしたかったから。店舗の運営方針も、目先の流行を追うのではなく、100年、200年先につなげる、という視点を守っています」(新井さん)

  •  地元の人に一番喜んでもらいたいと、フェアやイベントにも力を入れている「ひぐらしガーデン」。
     この日も出版社とのコラボ企画で、コミックエッセイに登場するパンとドリンクを再現した商品や、パン職人の皆さんが考案した「私が作りたかったパンフェア」が開催されており、作り手の愛情があちこちから伝わってきます。

     「これからも、“日暮里の価値を高めたい”という点はブレずにいきたいと思っています。以前、近所に住むお客様から、“友人を連れてきて自慢しました!”と言っていただけたことがあり、すごく嬉しかったですね」と、笑顔の新井さん。
     その言葉どおり、大切な人と訪れたくなる、心あたたまるお店です。

    【お店情報】
    ◆ひぐらしベーカリー
    東京都荒川区西日暮里2-6-7
    電話番号:03-6806-5551
    営業時間:8:00~17:00/定休日:月(※月曜が祝日の場合、翌平日休み)
    ◆パン屋の本屋
    電話番号:03-6806-6444
    営業時間:10:00~17:00/定休日:月(※月曜が祝日の場合、翌平日休み)
    「ひぐらしガーデン」公式サイト:http://higurashi-garden.co.jp/

  • 図書館という概念を超えた!
    「知」の融合施設で過ごす一日

     「読書を愛するまち・あらかわ」を宣言している荒川区では、本が身近にある街づくりに積極的に取り組んでいます。
     なかでも「ゆいの森あらかわ」は、中央図書館、文学館、子どもひろばの機能が融合した施設で、それぞれの機能を担うエリアをあえて壁で仕切らず、つながるように設計されています。

     1階にある「ゆいの森ホール」は、壁一面に絵本が飾られており、まるで、たくさんの物語の世界に招待されているかのよう。
     イベントがない日はホールで本を読むことも可能で、こうした自由な環境設定が、本との出逢いや向き合い方に、豊かな変化を起こすのかもしれません。

     さらに2階の「学びラウンジ」では、小学生を対象として、遊びながら科学などを学べる体験キットが用意されています。
     「歯車を回そう」「お弁当をつくろう」といったテーマごとに20種類以上の体験キットが揃っており、そこで得た気づきを本を通じてさらに深めるなど、探究学習へとつながるよう工夫されています。

  •  「ゆいの森あらかわ」は、1階から5階に向かって静かな空間となるよう構成されており、読書や勉強に集中したいときは、4階・5階の閲覧室や学習室、「ゆいの森ガーデンてらす」の利用がおすすめです。

     ひと息つきたくなったら、1階のカフェや飲食の持ち込みOKのスペースで休憩を。5階のテラスからは、お天気が良ければスカイツリーが望めます。

     日暮里エリアには、区民事務所を併設した施設「ふらっとにっぽり」もあり、地域交流やワークショップ型のイベントが開催されることも。
     目的やシーンに応じて使い分けることで、コミュニティの輪も自然と広がっていきそうです。
     また、日暮里駅から歩いて約7分の距離にある日暮里南公園は、芝生の丘と遊具があり、子どもから大人まで、多くの人たちの憩いの場となっています。

    【施設情報】
    ゆいの森あらかわ
    東京都荒川区荒川2-50-1
    電話番号:03-3891-4349
    開館時間:9:00~20:30/休館日:毎月第3木、施設点検日、年末年始および蔵書点検期間
    公式サイト:https://www.yuinomori.city.arakawa.tokyo.jp/

  • 「私のため」に焙煎してくれる
    コーヒーで、至福の時間を

     じっくり淹れた特別な一杯を、自宅で味わいたい――。
     そんなコーヒーを愛する人たちが通うのが、コーヒー焙煎の専門店「カメヤマ珈琲」です。
     店頭に並んでいるコーヒー豆は全て生豆(なままめ)の状態で、注文を受けてから店内で焙煎をしてくれます。

     オーナー兼焙煎士の亀山さんは、大手の人材紹介・派遣会社に勤めていましたが、自身で仕入れ・製造・販売までを手掛ける仕事に挑戦してみようと、コーヒーの世界へ。
     「焼きたてのフレッシュなコーヒーを飲んでもらいたい」と、注文ごとに少量ずつ、オリジナルの釜でていねいに焙煎するスタイルを貫いているそうです。

     「そのぶん手間も時間もかかりますが、うちは鮮度にこだわっていますから。酸化していないコーヒーは雑味やエグ味がないので、今までミルクを入れて飲んでいた方も、“ブラックで飲めて、コーヒーがこんなにおいしいとは!”と、おっしゃってくださいます」(亀山さん)

  •  人気の銘柄は、「カメヤマブレンド」や季節のブレンド、健康と美容をテーマにした「クロロ珈琲」など。
     「クロロ珈琲」には、ポリフェノールの一種であるクロロゲン酸が一般的なコーヒーと比べて約25倍も含まれていて、抗酸化作用が期待できるとされています。

     「創業したときからずっと、“いつか自分にしか焼けないコーヒーを作りたい”という想いがあり、16年目にやっと生み出すことができました。クロロゲン酸は焙煎すればするほど減ってしまうのですが、ある程度焼かないとコーヒーとしての味が落ちてしまいます。この“味と成分のベストバランス”を探るのが大変な作業でした。現在は、かなり高いレベルで両立できていると思っています」(亀山さん)

     注文は店頭受け取りのほか、公式サイトからも可能で、焙煎したその日に発送してくれます。
     「自分のためだけに焙煎されたコーヒー」を、じっくりていねいに淹れる——。そんな贅沢なひとときは、最高の味わいとなって、心までも満たしてくれるはず。

    【お店情報】
    カメヤマ珈琲
    東京都荒川区東日暮里6-22-14
    電話番号:03-3801-6776
    営業時間:10:30~18:00/定休日:日祝
    公式サイト:https://www.ginmame.com/

  • 下町の名残と四季の彩りを探して、
    谷中・上野エリアをぶらり散策

     お天気の良い休日、日常の風景から少し離れてみたくなったら、日暮里駅の西口から上野恩賜公園までを散策してリフレッシュを。
     寄り道せずに行けば30分ほどの距離ですが、あえて遠回りしてみたり、脇道にふらりと入ってみたりと、心おもむくままに歩くことで、新しい風景に出逢えるはずです。

     このエリアには、桜並木が有名な谷中霊園の「さくら通り」、谷中銀座商店街といった人気の観光スポットのほか、レトロな外観のカフェや歴史ある和菓子店、個性豊かな雑貨店など、思わず立ち寄りたくなるお店があちこちに建ち並びます。
     こうしたお店を覗きながら歩いていると、あっという間に時間が過ぎて、気づけば上野に到着してしまうほど。

     また、美術館やギャラリーも多く、アートに触れて感性のアンテナを磨くのもよいかもしれません。

     緑豊かな谷中・上野エリアは、季節ごとに変わる木々の色彩を楽しみながら、心のリセットもインプットもかなえてくれます。

  • 野山の風景をアレンジメントに。
    豆盆栽も作れるフラワーショップ

     日暮里駅から歩いて谷中霊園の「さくら通り」を抜け、約8分の距離にある「pupura MOSS(ププラモス)」は、まるで野山の花畑にいるような、優しい風合いの花々を取り扱うフラワーショップです。

     オーナーの阿田子(あたご)さんご自身、山野草が大好きとのことで、花のラインアップやアレンジメントのデザインも、「自然の風景をそのまま活ける」というイメージを大切にしているとのこと。

     「ダリアみたいな華々しいお花も好きですが、そこに野草が自然に混ざり合っていると、優しい生命力が増すんです。飾ってくださった方が、野山の風景を少しでも感じてもらえるといいなと思っています」(阿田子さん)
     店内には山野草の鉢植えも置かれていて、そのかわいらしさに、店先で思わず足を止める通行人も多くいました。

     「ププラモス」では、フラワーアレンジメント教室のほか、豆盆栽のワークショップも定期的に開催しています。
     こちらは、豆盆栽の鉢づくり/鉢の絵付け/山野草の植え付けまでの全3回で、鉢から自分で作れるという貴重な体験を楽しめます。

     かつて江戸の人たちも愛でていたであろう盆栽。そんな街の風情をひとかけら、自宅に飾ってみるのはいかがでしょう。

    【お店情報】
    pupura MOSS(ププラモス)
    東京都台東区谷中6-3-10
    電話番号:03-5842-1558
    営業時間:11:00~18:00、土14:30~19:00/定休日:月、火
    公式サイト:https://www.pupuramoss.com/

取材・文:秋山美津子(Dripword)
撮影:大石隼土
※掲載の情報は2025年6月時点のものです。
※記事内で紹介している所要時間は目安です。